上島珈琲とプロントの完全キャッシュレス化で売上高が違う理由

   2021/02/08

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「申し訳ございません。当店で現金は扱っておりません」
店員がこう告げると、お客は急いで財布からクレジットカードを取り出した――。
上島珈琲店大手町フィナンシャルシティ店とPRONTO二重橋スクエア店。
共に完全キャッシュレス店舗だが、売り上げは明暗が分かれたのが興味深いです。
10月から始まった消費増税によって、政府はポイント還元や各種補助金などキャッシュレス化を推進している。
この過程で、外食産業でも完全キャッシュレス化の店舗が増えているようです。
サントリーグループのプロントコーポレーション運営のPRONTO二重橋スクエア店と、UCC上島珈琲が運営する上島珈琲店大手町フィナンシャルシティ店です。
いずれの店舗も、東京駅から徒歩圏内という好立地です。
商品やサービスに加えて、キャッシュレスの決済手段によって店舗を選ぶ基準になるのか注目したいです。
完全キャッシュレス化が店舗にもたらす効果は大きいのが結論です。
PRONTO二重橋スクエア店では閉店後のレジ締めの時間節約となったうえに、人件費削減にも直結した。
同規模の店舗運営には通常は4人の従業員が必要だったが、3人での運営を実現したという。
現金不要になって店舗店員のストレス軽減にもつながった。
反面、完全キャッシュレス化のデメリットも見えてきた。
人件費の削減分は、カード会社に払う決済手数料で消えてしまうケースが多いです。
日本では海外と比較してカードの決済手数料が高すぎます。
手数料の高さが、外食産業がキャッシュレス化に乗り気でなかった原因の1つなのです。
人件費コストの削減という完全キャッシュレス化による効果は2店舗で共通している。 ところが、売り上げに目を向けると明暗が分かれた。

■完全キャッシュレス化で上島珈琲店が増収増益の秘密
「完全キャッシュレスにしたことで増収増益となった上島珈琲店。
鍵となったのが「既存顧客の取り込み」だという。
上島珈琲店大手町フィナンシャルシティ店では、今年の2月から完全キャッシュレス化へと舵を切った。
金融機関が周りにあることや、駅が近く交通系電子マネーが普及しており、もともとキャッシュレス決済比率が5割程度と高かったという。
そして、完全キャッシュレス化に踏み切る1ヵ月前から、店頭でキャンペーンを行うなどして移行期間を設けた。
大手町フィナンシャルシティ店は、土日はもともと休み。平日の既存顧客に対して認知を徹底したことで、完全キャッシュレス化への移行後も、客数は横ばいで推移した。
キャッシュレス決済のほうが、手持ちの現金を気にしなくていいため、現金払いより客単価が高くなる傾向があったという。
キャッシュレス化の効率面ばかりに注目するのではなく、「既存顧客の取り込み」 という王道を貫くことが成功への早道なのだろう。
おそらく、立地以上に業態の違いが大きな影響を及ぼしていると思う。
プロントは食事メニューも多く、回転率が高い業態ではない。
上島珈琲のはプロントに比べれば回転が高いですうえに、オフィスビルという場所のお陰で回転を高くなりやすいです。
回転が高いならばレジ頻度も高いです。
顧客もスピード重視だから顧客にとっても、店舗にとっても、プラスが大きいというわけです。
「完全キャッシュレス店舗」において、売上で明暗が分かれたのは、ビジネスの基本的な考えに関係しています。
上島珈琲とプロントの比較でも、ターゲット顧客が誰なのか、顧客に提供する価値、それを元にしたサービス、商品構成の構築といった点で違いが明白です。
どんな機能も、単独であるのではなく顧客提供価値の一部として捉えないとブレてしまいます。
「カード会社への決済手数料で人件費削減効果が消える」、「キャッシュレスで客単価が上がる」。いずれも、興味深いです。
例えば、モデル店舗の売上は900万円/月ほどです。
カード会社の手数料を高めに見積もって3%だとすると、キャッシュレス1ヶ月の手数料は27万円となります。
公式ページによるとプロント二重橋スクエア店の営業時間は7:00-23:00で16時間です。
準備と後片付けに30分ずつかかると仮定して、実働17時間。
モデル店舗の人件費は261万円で人数不明ですけど、時給1000円x17時間x30日で51万円に達するので、福利厚生費など含めれば4人態勢店舗であろうと推定できる。
一人削減できると261万円x1/4=65万円の削減。
4人態勢を3人態勢に1人削減する効果は65万円であるのに対し、カード会社への手数料は27万円。
つまり、プロントのモデル店舗通りになっていれば、全面キャッシュレスで利益が38万円/月増えるはずです。
プロント二重橋スクエア店が人員削減効果をカード会社手数料で相殺されてしまったと言うのであれば、そもそも売上が足りない。
その他のコストがかかり過ぎているのか、またはカード会社の手数料が3%の想定以上に不当に高いか、プロント公式ページのモデル店舗が絵に描いた餅か、つまりキャッシュレス化とは違うところに問題があると思われます。
キャッシュレスは目的ではなく手段ということです。
そこは実数値を見ながら着実に変化していければと考えています。
キャッシュレス比率が少々上がるだけでは締作業やレジ作業時間はそんなに変わらないので、完全キャッシュレス店舗への挑戦はこれからも続きます。

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